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お休みどころ 2003年7月9日(水)

 以前北御門家の飲み水の取水口を見せてもらったとき、維持管理がたいへんと聞きました。この家の水はどうなのだろうとおもいながら、二ヶ月すぎてしまいました。僕は小川から水をポンプで引いているとおもっていたのですが、大家さんによると湧き水なのだそうです。湧き水なので雨が降っても濁らず、夏冷たく冬は湯気の出るほどぬくい。昔々からの水源で、冬にも切れることはないそうです。こういう水源が身近にあることは、たいへんラッキーなことです。
 今日は隣家の椎葉ミツ子さん(75)に、敷地を案内してもらいました。いったいどこからどこまでが大家さんの地面なのかわからないままでしたが、すこしわかってきました。敷地の中にせせらぎが二本あり、スギ林三ヶ所と田畑二ヶ所があります。田畑はいまではカヤ(ススキ)畑と化しています。山に行くときはスズメバチが危ないと大家さんから釘をさされました。家と土地になじむのにはまだまだ時間がかかりそうです。いずれはお米や野菜を育てられる畑になり、雑木まじりの明るいスギ林になっていってくれればとおもっています。
 家の床下が閉じてあったので、風通しをよくするため開けています。床下が乾燥するにつれ、アリジゴクの巣がたくさんでき、助かっています。1㎝以上から4㎜ほどまで、何種類もアリが家にあがってきます。それがすこしマシになったようです。それはともかく、床下が猫の排便所になってしまい、よく臭います。「獣よけに床下をふさいだ」と近所の大工さんが言った理由はこれだったのですね。
 この家には南と北に土間と勝手口、二つのいろり、風呂、トイレがあり、床下を風が通りにくくなっています。そのこともあってか、梅雨はカビがひどかったです。とくに畳につく青カビがひどく、からぶき、水ぶき、アルコール、お酢、木酢液と、聖好さんは試行錯誤していました。結局、タワシでカビをこそげとって、すぐに掃除機で吸うのがいちばん効くようです。そのことがわかったころに梅雨が終ってしまったのは、憎らしいことです。
 ヒラタニというこの土地の地名にはどんな意味があるのかとおもい、井本伸廣先生(注1)に尋ねてみました。ヒラという言葉には日当たりのいいという意味があるそうです。たしかにここは明るい地。でも山の斜面であり、タニと呼ぶにはそぐわない、とふしぎにおもっていました。今日、椎葉ミツ子さんと歩いてみると、彼女は小さなせせらぎをタニと呼んでいます。この近辺には平谷川の支流がいくつもありますから、ヒラタニという言葉の意味は、「日当たりよく渓流の多い地」ということかもしれません。
 他にも地元の人はおもしろい言葉使いをします。「そろそろ家の造作(ぞうさく)ばせんば」「おたくらが山を支配さるっとですか」「下の薬店(やくてん)でバルサンを……」など。
 暑くなってくるにつれ、虫刺されがひどくなっています。二十分ほどの草刈りで聖好さんが右腕を十七ヶ所ほど刺されたり。ダニかブヨかアリか。野良仕事をするときは野良着に着替えるからまだしも、ちょっと洗たく物やふとんを干しただけで刺されるのではやりきれません。物干しざお付近だけでも草をていねいにひかないと、と話しています。とにかく住環境づくりに追われています。
                   興野康也

 きょう椎葉ミツ子さんに「今年の梅雨はひどかったですね。毎年こうなのですか」と尋ねると、ケロンとした顔で「今年は雨が少なかったです。」「雨はまだよかですよ。台風の風。瓦ば巻いてゆくとですよ。9月からがとくに台風のきますと。」
 私はため息ついて、まだ雨もりの修理のできていない屋根を見やるのでした。
 「自由って、ほんろうされた果てに出る吐息のようなものですね」と興野さん。
 まことに。
 ここにいると、自分のちからだけでできることなど、ほとんどありません。食料品から生理用品にいたるまで人の手を借りないことには、成ってゆきません。
 「あなたがいて、わたしがいる」(故伊奈教勝さん(注2))そのまま。
 「お休みどころ」、こころの水飲み場をもとめてここにやってまいりました。文字通り、おいしい湧き水の地でした。
 大家さんのハナ子さんに「一度いらして下さい」とお迎えにまいりましたが、「今週は忙しい」とやさしくお断りになりました。ここはハナ子さんが捨てた地。思い出の地。心のいたむことであろうなとそのときおもいました。
 「(地面の)境ば案内すっとだけん、あたも来んばとでんわで言うたとばってん、もう(この家を)見たくもなかてハナ子さんは言わすもん」とミツ子さん。つれあいが亡くなり二十年。猫十数匹と暮らしています。あら、雨。激しい降り。これがミツ子さんの「ふつうの梅雨」かもしれません。
                  上島聖好

(注1)井本伸廣。地質学者。京都教育大学名誉教授。
(注2)伊奈教勝(きょうしょう)。1922〜1995。僧侶。1947年より国立ハンセン病療養所・長島愛生園に隔離された。しかし、自ら本名を名告り、ハンセン病問題についての講演活動を各地で行った。
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